谷本歩実は強かった! 5戦完勝完ぺきなる金

 深夜の日本列島がまた燃えた! 柔道女子63キロ級で五輪初出場の谷本歩実(23)=コマツ=が金メダルを獲得した。開幕から柔道、競泳で金のレールが敷かれた後、体操男子、そして柔道と再びビッグウエーブが押し寄せてきた。キャリア実質5年の乙女がアテネで演じた快進撃。今大会の柔道女子では48キロ級の谷亮子に続く金。柔道女子日本勢が1大会で2階級を制したのは史上初の快挙となった。〔写真右:日本のメダルラシュは止まらない。谷本がまた金! 64年東京大会の計16個を塗り替えるのも夢じゃない=共同。同下:快進撃を続けた女子63キロ級の谷本。掲げる金メダルは、ニッポン柔道陣4個目。早くも史上最多タイだ=共同



 神話の国から送られる感動に日本列島の興奮が収まらない。谷本が身長差20センチの大柄なハイルを背負い投げから押さえ込む。金メダルを告げるブザーが鳴り、日本応援団から大歓声がわき起こると、ヒロインは両手で顔を覆っていた。


 「最高にうれしい。きょうは負ける気が一度もしなかった。完ぺきな金だと思います」。笑いたい。でも涙があふれてくる。開幕から続く金ラッシュは一時中断したものの、28年ぶりに王座を奪回した体操男子、そして柔道女子でまた金メダリストが生まれた。

 かつては無名のシンデレラ。中学時代は週2回だけの道場通い。本気で取り組んだのは筑波大に進学してからだ。それが、わずか2年間で01年ミュンヘン世界選手権銅メダル。ところが、そこからの道のりが長かった。

 「金メダルしかない」と意気込んだ昨年の世界選手権(大阪)は3回戦敗退。落ち込み、いつも応援してくれる両親にも1カ月以上、連絡できない日が続く。そんなある日、ムラっ気のある性格が自分の才能を邪魔していることに気づいた。

 「何でもいいからメモをつける。読み返すと、私っていつもキレてるんだなあと…」。アテネを見据えた一念発起は今年2月。日記といえば聞こえはいいが、ページを埋めるのは文字だけではない。喜怒哀楽、つまり自分の心理状態などを折れ線グラフに表してみることもした。

 敵のことを考える前にまず己を知る−。「谷本歩実」の変化を綴った大学ノートはすでに4冊を数える。自身をコントロールできる天才から不安は消えた。今年5月のアジア選手権にオール一本勝ちで優勝。全日本女子・吉村和郎監督は「アテネはメダル候補から金メダル候補になった」と予言した。

 初戦は縦四方固め。そして2回戦は開始15秒の内また、3回戦は同17秒の払い腰で“秒殺”だった。準決勝は昨年の世界選手権(大阪)を制したクルコウェルを退けた。予言通り、谷本は本当に強かった。

 「試合を待っているとき、いつもは緊張するんですけど、きょうはワクワクした。今までやってきたことが自信につながりました」

 他競技を含めた今大会の金メダルは6個目。早くも、前回00年シドニー大会の5個を超えた。今春、社会人になったばかりの23歳が再び引き戻した流れ。新女王の誕生がニッポンにさらに大きな力を与える。

臼杵孝志


■谷本 歩実(たにもと・あゆみ)■

 ★生まれ&サイズ 1981(昭和56)年8月4日、愛知・安城市生まれ。23歳。1メートル58

 ★経歴 桜丘高−筑波大−コマツ。柔道は5歳から安城市柔道教室で始め、小学2年からバルセロナ五輪金メダリストの吉田秀彦を輩出した大石道場で学ぶ。得意技は内また、払い腰、大腰。右組み。二段

 ★主な成績 03年世界選手権3位。01、04年アジア選手権優勝。01、04年全日本選抜体重別選手権優勝。01、02年福岡女子国際優勝

 ★砲丸投げ 中学時代は陸上部に所属。種目は顧問の教師に「内またの練習になるから」と勧められた。だが「いかにも柔道選手って感じで嫌だった」とか

 ★親分肌 「ごく普通の子供だった」と父・英治さん。ただ、「何ごとも自分から率先してやっていた。イニシアチブを取らないと済まない性格だった」

 ★好物と苦手 好きなのは定食。「ごはんとみそ汁があればいいです」。苦手はケーキやチョコレート。「甘いものはダメ」と減量が必要な柔道選手には理想的

★そのとき★

 谷本の両親も歓喜に身を任せた。幼稚園のときに柔道を習わせた父・英治さん(54)は「息子を小学校の柔道教室に入れたら、娘もやりたいと言い出して…」と当時を懐かしんだ。妹に投げ飛ばされて柔道を断念した兄・友貴さん(25)は「背中はついてなかった。判定が甘かったんですよ」と苦笑いで世界一の妹に拍手を送った。母・洋子さん(45)は「社会人になって環境が変わったことも大きかった。みなさんのおかげです」と目を潤ませた。

★データBOX★

14日の48キロ級の谷に続き、日本女子が史上初めて1大会で2階級を制した。男子と合わせた金メダル数も4個となり、84年ロサンゼルス大会(男子のみ)、前回00年シドニー大会(男子3、女子1)と並ぶ最多タイ記録。今大会は残る3日間の計6階級に4人の世界王者が出場する。記録更新は確実。

大会5日目現在における全競技を含めた金メダルも6個となり、シドニー大会の5個を早くも超えた。今後も柔道に加えて競泳の北島や女子レスリングなど金メダルが期待される種目がめじろ押し。史上最多の64年東京大会の16個を更新することも夢ではなくなってきた。

★吉田秀彦★

 同じ大石道場(愛知・大府市)出身として誇るべき金メダルだった。おめでとう谷本。金メダルを獲るだけじゃなく、初戦から一本勝ちでの快進撃をみせてくれたのがうれしい。自分の柔道を貫いての勝利だった。

 谷本の性格をひとことでいえば天子爛漫(らんまん)。この日も、大舞台の緊張を自分の笑顔で解きほぐして戦った。決勝の一本背負いからの押さえ込みに、技をかけて倒しても押さえ込むまで相手を離さない古賀(稔彦)コーチの教えが生かされていた。

 アテネへの壮行会で会ったとき、「吉田先輩の後、大石道場の五輪出場を引き継ぎました。金メダルも先輩から引き継いで持って帰ります」といっていたが、約束を守ってくれた。

 それにしてもメダルラッシュはすごい。柔道に加え、競泳、体操が連日の大活躍。18日も柔道をはじめ、日本選手団の活躍を楽しみにしています。

柔道家



著作権、リンク、個人情報について