“特許の塊”ハイテクマシンが日本を鍛える

カヌー代表のエース・北本忍 カヌーの“天才”がハイテクマシンを武器にしてアテネにはばたく。カヌー代表のエース・北本忍(28)=富山県体協=は東京・北区の国立スポーツ科学センター(JISS)に総工費7億4000万円をかけて設置された「回流水槽」で猛特訓中。体格差を補う技術を磨き、日本初のメダル獲得を目指す。〔写真:回流水槽で猛特訓中の北本。何てったってこの水槽、特許品ばかりで造りました=撮影・牧慈

 カヌーって大自然の中でやるスポーツじゃないの? そんなイメージをぶっ飛ばす練習で北本は強くなった。毎週火曜日になると、埼玉・戸田公園漕艇場からパドル1本かついでJISSの地下1階にやってくる。世界初の威容を誇る回流水槽こそが練習場だ。

 「外でやる練習とは全然違って、目の前のモニターで自分が漕いでるのが見られるし、どっちにどれくらい傾いていたかのデータがすぐに数値で出るので、フォームをチェックできるんです」

 長さ10・5メートル、幅2・5メートルのレーンの上にカヤックが浮いている。スイッチを入れると、前方から最大秒速5・5メートルの激流がドーン! にもかかわらず、波は常に5センチ以下のフラットな状態に保たれている。この回流水槽は石川島播磨重工が多くの特許品から建造した“特許の塊”で総工費7億4000万円。国立だからこそ可能な豪華施設。似た施設はイタリアにあるくらいだという。

 北本は激流に逆らい必死にパドルを回す。秒速4・5メートルでのダッシュを5本。続いて4・1、4・2、4・3メートルでの2分間漕。艇の前部にあるセンサーが前後、上下、左右、回転の4種類の動きを感知する。北本がやや左寄りだったフォームを修正できたのは、回流水槽のおかげだった。

 「日本人は小さいけど体重が軽い分、スタートの出足が有利。後半のストロークを強く長く引けるよう強化すれば戦えると思います」

 武庫川女大入学後に競技を始め、2年後には日本代表入りした天賦の才。畑満秀・日本代表監督(56)は「体の軸が動かず、パドルを左右均等に動かす技術は抜群」と期待する。畑の真ん中に造られたアテネ五輪会場は追い風が吹くのも日本選手に有利。身長1メートル62、体重60キロの体は外国勢には劣るが、スタートダッシュと高い技術で勝負を挑む。

牧慈

北本 忍(きたもと・しのぶ) 1977(昭和52)年2月1日、兵庫・川西市生まれ。27歳。川西北陵高まではバレーボール部に所属。武庫川女大でカヌーを始める。2年生で全日本学生選手権総合優勝。3年生の97年から日本代表入り。レーシング・カヤックで02年釜山アジア大会フォア500メートル銅メダル。03年全日本選手権シングル500メートル優勝、同年世界選手権シングル500メートル準決勝敗退。1メートル62、60キロ。

★アテネ五輪・カヌー日本代表★
氏 名 所  属
レーシング女子・カヤック
北本  忍 富山県体協 27
鈴木祐美子 奈良県体協 28
竹屋美紀子 山形・谷地高教 23
足立 美穂 埼玉県協会 24
白田美由希 日本ウェルネススポーツ専門学校 19
【注】シングル(1人乗り)、ペア(2人乗り)、フォア(4人乗り)の3種目で出場権獲得

★ルール★
 五輪では流れのない水域でタイムを競う「レーシング」、川の急流に設置されたゲートをくぐりタイムと技術を競う「スラローム」の2種目がある。それぞれ「カヤック(両方を漕ぐ)」と「カナディアン(片方を漕ぐ)」の2種類の艇があり、アテネで日本勢が出場するのはレーシング女子カヤックのシングル、ペア、フォアの3種目。カヤックは選手が入るところ(コックピット)だけが穴になっており、カナディアンは艇の上の面が覆われていない。

★五輪日本史
 カヌーは36年ベルリン大会から正式種目。日本は64年東京大会から80年モスクワ大会を除き10大会連続出場。過去の最高成績は84年ロサンゼルス大会でのレーシング男子カナディアンシングル500メートルの井上清登の6位。前回シドニー大会は男子の安藤太郎(スラローム男子カヤックシングル)と丸山小百合(レーシング女子カヤックシングル500メートル)がともに予選落ちだった。

★世界の勢力★
 日本勢が出場するレーシング女子カヤックはハンガリー、ポーランド、ルーマニアなど東欧勢、ドイツ、スペイン、イタリアの西欧勢、カナダ、米国など北米勢が強豪だ。近年は中国も成長。昨年9月の世界選手権(米国)では、カタリン・コワクスを軸とするハンガリー勢がシングル500メートル、ペア500メートル、フォア500メートルの五輪種目ですべて優勝した。


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