ミスターの夢かなわず、松坂熱投もまた豪州に苦杯
夢はついえた。長嶋ジャパンが悲願の金メダルを逃した。野球の決勝トーナメント準決勝を行い、日本は1次リーグで苦杯を喫した豪州に、0−1でまさかの完封負け。松坂大輔投手(23)の7回2/3を5安打1失点、13奪三振の力投も実らなかった。2大会連続で決勝進出を逃した日本は25日、3位決定戦に回り、銅メダルをかけ、カナダと対戦する。〔写真右:三振の山を築いた松坂だが、力投は実らなかった=撮影・尾崎修二。同中:九回、三ゴロの中村は一塁へ気迫のヘッドスライディングを見せるも、アウト=撮影・塩浦孝明。同下:最後の打者となった谷は、一塁に駆け込む際に右足を負傷。トレーナーに担がれて退場する、最悪の幕切れとなった=撮影・塩浦孝明〕
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すべてがモノトーンに見えた。アテネの青空も緑まぶしい天然芝も…。試合終了の瞬間、松坂の時間が止まった。
「自分では良く投げたと思う。大切な試合というのは分かっていた。とにかく先取点を与えないことを考えていた。結果的に先に点を取られ、チームに良い流れを作れなかった」
長嶋ジャパンの、いや日本中の夢がはかなく消えた。試合後の会見場。松坂はジャパンの帽子を目深にかぶりながらも、はっきりとした口調で128球を振り返った。
アテネの悲劇。悪夢としか思いたくない。松坂の投球内容はそれほど完璧(かんぺき)だった。一回にいきなり3連続奪三振発進。四回まで8三振を奪う圧巻の投球だった。豪州には18日の1次リーグで4−9と完敗。先発・清水の高めの直球を面白いようにはじき返された反省から、この日の松坂は豪腕のイメージとは裏腹に変化球主体の投球だった。
右上腕部には黄色いアザが残っていた。決死のマウンドとなった17日のキューバ戦で打球をモロに受けた。それでも九回途中まで投げ、日本が五輪で初めて同国に白星を挙げる原動力に。試合後、ホテルに戻っても痛みは引かず、微弱電流の流れる装置を付けてベッドに入ったほどだった。
前回シドニー大会では3試合に登板し、0勝1敗。3位決定戦で敗戦投手となり、メダルを逃したリベンジに心の底から燃えていた。イタリア直前合宿ではDVDで気分転換を図ったが、アテネ入り後は野球に集中。参加予定だった柔道の谷亮子の応援も直前にキャンセルした。
投手陣11人のほとんどがイタリアで登板予定を首脳陣から伝えられたが、松坂だけは準決勝登板を離日前に知らされていた。準決勝で弾みをつけて決勝でキューバをたたく。日本で脳梗塞(こうそく)のリハビリを続ける長嶋監督の金メダル構想は、松坂中心のローテに端を発していた。
落とし穴は、100球を超えた六回に潜んでいた。二死一、三塁から右前に運ばれ、先制点を献上。その後も責任感と気合で投げ続けたが、八回に2安打され、無念の降板。気持ちを託すためすぐにはベンチに帰らず、2番手・岩瀬に直接ボールを渡した。攻撃陣は四回まで毎回安打を放ちながら無得点の援護なし。三回一死三塁の絶好機には福留、宮本が凡退。七回二死一、三塁では藤本が三飛に倒れた。よもやの完封負けに三塁ベンチは凍りついた。
「松坂は最初から飛ばしてくれた。(長嶋)監督も国民のみなさんにも大きな期待を持って声援していただいたのに。すべては私の責任です」
監督代行として指揮を執った中畑ヘッドコーチも憔悴(しょうすい)しきっていた。『フォア・ザ・フラッグ』。長嶋監督に最高の報告はできなかった。しかし、25日には3位決定戦がある。五輪史上、初めてプロ単独で編成された“ドリームチーム”。銅メダルを獲得し、日の丸をポールに掲げることが、08年北京五輪への夢の懸け橋となる。
(山田貴史)
◆長嶋茂雄監督(68) 「お疲れさまでした。正直、とても悔しい。しかし、それ以上に諸君たちはもっと悔しいことでしょう。松坂君は右腕のアクシデント以降、きょうは1点を取られはしたもののよくぞ投げた。ナイスピッチングでした。諸君たちの最後まであきらめない姿勢がテレビを見ていた日本のファンの方たちに、たくさんの感動を与えていることは私もうれしい限りです。勝っておごらず、負けてくさらず。あしたの試合も今まで通り、全力で戦ってください。諸君たちのためのオリンピックだったと思うためには、有終の美を飾ることがとても大切です」
(長男・一茂氏を通じて代表にファクスでメッセージ)
★ノーヒットの中村「銅は持って帰る」
豪州の2投手にノーヒットに封じ込まれた中村(近鉄)は「長嶋さんに最高の知らせを持っていきたかった…」とうなだれた。メダルを逃した00年シドニー大会のメンバーで、今大会には帽子のひさしに『金メダル』『気合』と書き込んで臨んだが、この日は2三振に2内野ゴロと快音なし。「少なくても銅は持って帰る」と気持ちを切り替えていた。
★城島の目に涙
松坂を好リードした城島(ダイエー)だが、痛恨の準決勝敗退に涙が浮かんだ。「(松坂)大輔は本当によく投げてくれた。結果的に(打者が)見殺しにしてしまった」。長嶋ジャパンの4番に座ったが、この日は四回の左前打のみで、六回二死二塁の同点機は右飛。25日の3位決定戦へ向けて「日本のファンも見ている。最後までやるだけです」と必勝を誓った。
★宮本悲痛、「力負けです」
試合後、しばらく誰も動けなかった日本ベンチ。最初に前を向き、一歩目を踏み出したのは主将の宮本(ヤクルト)だった。「力負けです。言い訳はできません」。1次リーグ7戦で5割以上の高打率を誇ったが、この試合は三回二死三塁の好機に一飛。「申し訳ないです…」。潤んだ目を伏せずに語る姿が、痛々しかった。
◆大野コーチ 「松坂を責めることはできない。非常にいい形で粘り強く投げてくれた。投手交代は大きな決断だった」
★谷は右足首ねんざ
野球日本代表の谷佳知外野手(31)=オリックス=は、24日の豪州戦の九回二死、三ゴロに倒れて一塁に駆け込んだ際に転倒。右足に激痛を訴え、トレーナーに担がれて、グラウンドを退いた。
宿舎に戻ってチームドクターの診察を受けた結果、右足首ねんざと診断された。同日中に病院には行かなかったが、25日の3位決定戦は欠場の見込み。
★国内でも残念…★
◆広島・山本監督 「負けたのか。0―1のままか。それは残念やな。でも、まだ銅メダルは残っているし、最後までがんばって欲しい。でも、残念だ」
◆横浜・山下監督 「日本が負けた? そうなの。一発勝負だから難しいね。(金はともかく)メダルを取ることが大事だし、ぜひ取ってほしいですね」
◆ヤクルト・古田 「えっ、負けたの。僕らも残念だけど、本人たちが一番残念でしょう。向こうも必死だし、一発勝負だから何があるか分からない」
◆ダイエー・松中 「五輪は一発勝負。金を取るのは簡単じゃない。でも全力を尽くして負けたんだから、落ち込む必要はない」
★1次リーグ豪州戦VTR(18日)★ 前日に宿敵キューバを倒し、その12時間後に豪州と対戦。先発の清水直(ロッテ)が3回までパーフェクトも4回に突如崩れ3失点。1−3の5回に福留(中日)の3ランで4−3と逆転するも、7回に三浦(横浜)、石井(ヤクルト)が相次いで打たれ勝ち越しを許す。8回にも安藤(阪神)が元中日のニルソンに一発を浴びるなど3失点。打線は阪神のウィリアムスに終盤の反撃を封じられ、4−9の逆転負けで今大会初黒星を喫した。 |
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