室伏シドニーの雪辱果たす銀、4年後北京で戴冠だ

室伏広治 “新アジアの鉄人”室伏広治(29)=ミズノ=が22日の陸上男子ハンマー投げ決勝で、銀メダル。記録は82メートル91で、優勝したアドリアン・アヌシュ(31)=ハンガリー=とはわずか28センチ差だった。金メダルには届かなかったが、五輪投てき種目で日本選手として初めてメダルを獲得。9位に終わったシドニーの悔しさを晴らし、4年後の北京での戴冠を目指す。〔写真右:気迫の投てきでハンマーの行方を追った室伏。惜しい。あと28センチだった。同下:室伏の運命の6投目。全力を尽くしたが…=代表撮影



室伏広治 金メダルの夢を乗せた最後の投てきにスタンドから大歓声が上がった。7・26キロのハンマーは高々と弧を描き、80メートルラインを大きく超えて着弾。だが、28センチ及ばない。電光掲示板に「82・91」が表示されると、室伏はふっと表情を緩ませ、地面に手をついた。


 「きょうは頭を真っ白にして集中した。みなさんの声援や支えを最後のエネルギーに変えたんですが…。もうちょっとでしたね」

 3投目にアヌシュが83メートル19をマーク。室伏は4投目に82メートル35を投げて追撃態勢を整えた。ラストチャンスの6投目を前に、フィールドに大の字になって寝転がり、神経を集中した。「室伏コール」の中を、スピード、パワー、技術の3要素が最大限に発揮できる高速4回転を磨き上げてきた練習のすべてをハンマーに乗せた。

 スタンドで見守る元祖鉄人、父・重信コーチ(58)も「練習でもあれだけスピードに乗った回転はしてなかった」と及第点を出した渾身の投てき。目指した金メダルにはわずかに届かなかったが、9位に終わったシドニーの無念は晴らすことができた。

 もちろん満足しているわけじゃない。01年に世界のトップに躍り出た。今季は自己ベストが82メートル88の5位ながら、5戦全勝で乗り込んだ2度目の五輪。勝負強さも身につけたはずだった。しかし、結果は銀メダル。父は息子の笑顔の下の悔しさを代弁する。

 「メダルを獲っても素直に喜べない。それだけ広治が力をつけたということ。自分でも悔しいと思っているでしょう。でも、今季のベストを出したし、力は出したと思う。あとはタイトルを取ること。これが大きな目標になる」

 シドニーの屈辱を糧にした4年間。これから北京までの4年間も己との闘いになる。「アジアの鉄人」と呼ばれたハンマー投げ選手の父と、やり投げのルーマニア代表だった母の間に生まれたアスリートは今、29歳。父は40歳まで現役を続けた。まだ、できる。

 「この4年間で自分は大きく成長したと思うし、これからも伸びる可能性がある。まだ記録は伸ばしていける。これから数年が楽しみ」。三度目の正直の金獲り。頭の中に既に青写真は出来上がっている。

臼杵孝志


室伏 広治(むろふし・こうじ)

 生まれ 1974年10月8日、静岡・沼津市。29歳。千葉・成田高で本格的にハンマー投げを始める。中京大を経て97年ミズノ入社。中京大大学院にも籍をおく

 投てき一家 父はご存知「アジアの鉄人」室伏重信・中京大教授。母はルーマニア元五輪代表やり投げ選手のサラティナさん(離婚)。ともに五輪代表となった妹の由佳は円盤投げ、ハンマー投げの日本記録保持者

 名前の由来 重信氏が命名。「世界を広く治めるように」の願いと、外国人にも発音しやすいことから

 怪童 小2のときにオープンで中京大記録会に出場。重さ3・5キロのハンマーを30メートルくらい投げた。そのハンマーは今も由佳が練習で使っている

 アスリート マルチな運動神経の持ち主で、98年長野五輪前には日本ボブスレー協会からラブコールを受け、日本代表テストを受けたほど

 絵の才能も 意外な才能が絵画。98年の「NHKハート展」で障害者の詩をモチーフにして描いた作品が展示された

 肉体 投てきの際、400キロを超える遠心力を受け止めるのは1メートル87、96キロの体。フルスクワットは230キロ以上、スナッチは132キロを挙げる。足のサイズは右28・4センチ、左28・5センチで、土踏まずにも筋肉がつく

 4回転 中京大大学院の修士論文は『ハンマー投げの回転半径』。父が編み出した4回転投法から放たれた鉄球の初速は時速110キロ超

 父超え 父の日本記録を更新したのは98年4月。76メートル05を出して、14年ぶりに69センチ更新。現在は世界歴代3位の84メートル86まで記録を伸ばした

 ミニテニス 中京大では練習の合間に体育館で学生とスポンジの球を使ったテニスで遊ぶ。「メジャーリーグ」と称して、年間の勝敗数を争っている



★室伏に聞く★

 −−金メダルにわずかに及ばなかったが
 「みなさんに喜んでもらえるようにいい結果を出したかった。声援を最後のエネルギーに変えたんですが…。しようがないですね」

 −−試合中の心境は
 「頭を真っ白にして臨んだ。きょうは階段を一歩ずつ上がるつもりで臨んだ」

 −−ファウルの判定を巡って中断もあったが
 「自分のことに集中していたし、何かが起こると思っていたから気にならなかった。待っている間も落ち着いていた」

 −−お父さんには
 「感謝しています。ありがとうと言いたい」

 −−競技開始前に女子マラソンで野口選手が優勝したが
 「彼女が金メダルを獲ると思っていた。野口さんの走りを自分のエネルギーにしました」

 −−今後は
 「まだ記録は伸びる可能性がある。これから数年が楽しみです」

★父はいつものように

 重信さんははいつものように観客席でビデオを回しながら子供たちの競技を見守った。22日の広治の投てきを「最後の1投は非常に良かった。勝負としてはちょっと残念。惜しかった」と振り返った上で、銀メダルについては「本当に立派」と褒めた。23日の由佳に対しては「65メートルを超えたのは良かったが、これから経験を積まないといけない」と話した。

シドニー屈辱VTR
 4年前。メダルの有力候補とみられていた室伏は、予選を全体3位の78メートル49で楽々と通過した。が、決勝では、雨で濡れたサークルに足を滑らせ苦闘。3投目を終えて76メートル60にとどまり、記録上位者8人による4投目以降に進むことができず、9位に終わった。


ハンマー投げ
 ハンマーの重さは7・260キロ、サークルの直径は2・135メートル。有効ラインは34・92度。ハンマーがラインの内側に落下すれば有効。記録のセンチメートル単位以下は切り捨て。今大会には35人が参加、予選で12人に絞り込まれた。決勝では各自3回ずつ投てきし、上位8人が4投目以降に進出、さらに3投した。


 ◆室伏広治と親交のある横綱朝青龍 「銀メダルおめでとうございます。もう一つ上のメダルは4年後の楽しみにしておきます。それにしても28センチ(の差)は悔しかったです。最後の投てきは見ていて『行った』と思ったんですが…」

 ◆室伏を抑えて金メダルに輝いたアヌシュ 「選手になった時から、この夢(金メダル)のためにずっと練習してきた。まだ実感がわかない」

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