【水泳】米国のイチャモン風に流して北島は2冠へひた走る
2冠へ出陣だ。15日の競泳男子100メートル平泳ぎ決勝で、北島康介(21)=東京SC=が1分0秒08で金メダルを獲得、日本競泳陣で12年ぶりの五輪王者となった。銀メダルのブレンダン・ハンセン(23)=米国=の陣営が北島に“泳法違反疑惑”を突きつけるなど、17日に予選スタートの200メートルへ向けた神経戦が勃発。中傷を仕掛けてきたハンセンを返り討ちにして、日本競泳史上初の快挙を達成する。〔写真:金メダルを首にかけた北島が、日本の応援団と喜びを分かち合った=撮影・尾崎修二〕
◇
北島が逃げる。ハンセンが追う。日米の応援団の絶叫の中を先にゴール板にタッチしたのは、日本国民の期待を背負った北島だった。金銀の差はわずかに0秒17。「チョー気持ちいいっ!」と絶叫して涙を流し、表彰台の頂上で君が代を声高に歌った男が、次なるターゲットを公言した。「200も最高のパフォーマンスを見せます」−。
2冠を本気で狙う。優勝から一夜明けたこの日、北島は休養に充て、競泳プールに姿を見せなかった。金獲り直後はテレビ、ラジオ局計7社のインタビューをこなして選手村に戻り、午前2時ごろ就寝。関係者によると「100の金は過去のことと割りきって、既にモードを200へ切り替えていた」という。
日本の英雄が歓喜に酔っていたその時、ライバルの米国は早くも“北島潰し”にとりかかっていた。「北島は泳法違反だ!」。レース後、米国の男子背泳ぎ代表のアーロン・ピアソルが絶叫した。「彼はドルフィンキックを打っている」というのが、その言い分だ。
平泳ぎでは、バタフライのようなドルフィンキックは禁じられている。北島の下半身が、スタートで飛び込んだ直後に一度波打ったことを示して、「反則だ」と言い放った。200メートルでもハンセンと北島の一騎打ちが有力。そんな状況で、競泳大国・米国が包囲網を敷いてきたのだ。
もちろん、これは言いがかり。北島を指導する平井伯昌コーチも「まったく問題ない。逆に外国人選手の方が(キックを)打っているという印象だ」と一笑に付した。ハンセンのリース・コーチは「抗議はしない」との意向を示し、国際水連関係者や審判の間では話題にもあがらなかった。
米国側のイチャモンに、北島は「してません」と吐き捨て、200メートルへの闘志を高めた。2冠は昨年7月の世界選手権(バルセロナ)で経験済み。今大会は100メートル決勝から中1日の17日に200メートルの予選、準決勝が、その翌日に同決勝が行われる。昨年の世界水泳の日程も、同じパターンだ。ちなみに、世界水泳ではハンセンに100メートルで0秒43の差をつけて優勝、200メートルでは1秒69もの差をつけ圧倒した。
「悔しい思いをしたら、必ずやり返す」が身上。4年前のシドニー五輪100メートルで4位になったリベンジを果たすための努力が、今大会の金に結び付いた。世界水泳で打ち立てた100&200メートルの世界記録を7月にハンセンに塗り替えられたことで「打倒ハンセン」を大命題にした。平井コーチは言う。「今の康介は強いですよ」−。
17日、次なる戦いの舞台へ。日本選手の五輪1大会2冠は加藤沢男ら体操界で6例あるのみ。北島が水泳界初の快挙へ向けて、再びスタート台に立つ。
(結城正)
★劇勝VTR★
北島5コース、ハンセン4コース。北島のリアクションタイム(号砲から台を離れるまでの時間)は、0・72とまずまず。前半50メートルは28秒26で、ハンセン、デュボスに続く3位で折り返し。だが、ターン直後にトップをとると驚異のスパート。ハンセンも必死に追い上げ、最後は水のかき合いに。北島はタッチがピタリと合い、ハンセンに0秒17差で優勝した。
★北島に聞く★
−−レースを振り返って
「レースのことはあまり覚えていない。無心でなおかつ冷静に泳いだ」
−−ハンセンとの戦いとなったが
「ハンセンとの一騎打ちになると最初から思っていた。彼しか気にしていなかった」
−−勝利を確信したのは
「ターンした後、ハンセンがそんなに前じゃなかった。自信を持って、前に出られると思った」
−−今季は不調だったが
「不安になっても仕方がない。自分を、平井コーチを、信じてやるしかなかった」
−−200メートルは
「気持ちは楽になった。最高の泳ぎを見せたい」
★ハンセンは脱帽
15日が23歳の誕生日だったハンセンは、北島の泳法違反騒動について、「チームメートのことを考えてやってくれたのだろう。審判員が何の動きもしなかったのが証拠」と取り合わなかった。が、「彼の雄たけびが耳に焼きついている。燃えないわけがない」と、200メートルでの雪辱を誓っていた。
★世界水泳2冠VTR★
100平決勝で前半50メートルを4番手で折り返しながら、後半に爆発的な追い上げをみせ、従来の記録を0秒16更新する59秒78の世界新記録で金メダルを獲得。3日後の200平でも、ラスト50メートルで2位以下を引き離す力強い泳ぎを披露し、2分9秒42の世界新で金。日本の競泳選手が個人2種目を制したのは五輪、世界選手権を通じて史上初の快挙だった。
★2冠で“北島ロード”だ
北島の地元、東京都荒川区は大フィーバー。金メダルから一夜明けた16日には、凱旋パレード案が急浮上した。パレードコースは北島の実家がある『道潅山通り商和会』の約600メートルで、昨年の世界水泳2冠の際にも実現しなかったスペシャルイベントだ。
区の関係者は「パレードは、本人が了承してもらえればやりたい」と前向き発言。住民からの要望が多ければ、道潅山通りに「北島」の名を冠した名称への変更もあり得るという。
2冠を獲れば、北島康介記念プールや都電荒川線での優勝お祝いラッピング電車など多くの企画が実現しそう。さらに、東京都の名誉都民賞をスポーツ選手では初めて受賞する可能性まで出てきた。
★選手村にも北島効果
前日、北島が獲った金メダルは日本選手にも大きな影響を与えた。16日の予選に出場した選手は、北島のレースを選手村でテレビ観戦したそうで、山本は「いい刺激になりました。気合が入りました」と力を込めた。永井も「みんな感動した」。女子200個混で予選落ちし、全レースを終えた天野は「自分の状態を最後には最高に持っていける。すごいなと思った」と、うらやましそうに話した。
|