【水泳】日本中が待っていた! 夢実現、北島やったぜ金だ
夢をつかんだ。競泳男子100メートル平泳ぎ決勝で、日本のエース北島康介(21)=東京SC=が、1分0秒08で金メダルを獲得。競泳での日本選手の金は92年バルセロナ五輪女子200平の岩崎恭子以来12年ぶり、“お家芸”の男子平泳ぎでの五輪王者は72年ミュンヘン五輪の田口信教以来32年ぶりの快挙となった。北島は17日に予選を開始する200平で、日本競泳界初の個人種目での五輪同一大会2冠に挑む。〔写真:やった! トップでゴールした北島は、拳を握りしめた=撮影・尾崎修二〕
◇
夢に向かって、北島のストロークが伸びる。50メートルのターンで体半分前に出ると、世界のライバルたちの追い上げを懸命に振り切った。ゴール! 優勝を確認すると、右手の人さし指を立てて「1番」をアピールした。やった!! 日本中が、この時を待っていた。
「チョー気持ちいいっ!!」。絶叫した後、胸を張ってこう言った。「絶対に勝ってやるという強い気持ちを持って、スタート台に上がりました」。ヒーローインタビューでは強気。だが、控室に引き揚げる途中、感極まって赤くなった目をそっとぬぐった。人前で見せた初めての涙だった。
苦しかった思いが、脳裏をよぎった。昨年7月の世界選手権(バルセロナ)で100、200平を世界新記録で制し、五輪での優勝は確約されたかに見えた。が、けがや病気で強化計画が狂い、7月にはブレンダン・ハンセン(米国)に2種目とも記録を破られた。
前日(14日)の予選は1分0秒03の五輪新記録で全体1位通過。しかし直後の準決勝では、ライバルのハンセンに0秒26遅れる1分0秒27で2位。金メダルに黄色信号がともったかに見えた。
「リズムが崩れた」。こう語った北島は“あの眼”になった。中学2年時に出会った現在の師・平井伯昌コーチに「ガリガリに細くて硬そうな体だけど、おっかない、スゴみのある眼をしている」と興味を持たせ、指導を決意させた鋭い視線。野獣の本能が五輪の大舞台で蘇り、短時間で心技体を修正したのだ。
プロの競泳選手として水着メーカーと6000万円ともいわれる契約を結び、CMにも複数出演、ファッション誌にも取り上げられ、国民的スターとなった。「でも、晴れの場にいるのは不思議で、緊張する。水の中にいる方がいいかな」。スイマーとしての自分を見失わなかった。
五輪制覇のために、昨秋、平井コーチとともに“生まれ変わる”ことを決めた。昨年の泳法や体力を維持するだけでは、五輪では勝てない。泳法の見直しと筋力強化で、足で水をとらえる力に、上半身の力強いストロークがプラスされた。
ライバルのハンセンを銀メダルに追いやって、夕暮れに輝く金メダルを首にかけて君が代を歌った。かつて「日本のお家芸」といわれた平泳ぎで、男子選手として32年ぶりの優勝を果たした男の視線は、早くも次を見据えている。日本人スイマーが誰も成し遂げられなかった1大会2冠だ。
「200でも最高のパフォーマンスを見せます」。もう涙はない。200平の予選は17日、決勝は18日。北島は日本水泳史上空前の快挙を狙っている。
(結城正)
★そのとき★
スタンドには北島選手の地元、東京・荒川区の応援団と家族や友人ら約60人が陣取って必死の声援。叔母・北島澄子さん(53)はホオに日の丸のシールを張り「頑張って!」。競技が始まると、家族らは胸に「KITAJIMA」と入ったオリジナルの黄色いTシャツ姿で声を振り絞った。北島が所属する東京スイミングセンターの宮城康次所長(72)は「康介ならやってくれると思った」。期待が現実のものとなった。
★データBOX★ 北島は平泳ぎで日本選手として7人目の五輪王者となった。競泳で初の金メダリストは28年アムステルダムの鶴田義行で、鶴田は次大会も優勝した。古川勝は56年メルボルンで潜水泳法(現在は禁止)で五輪を制覇。田口信教は72年ミュンヘンで2種目でのメダルを獲得した |
◆72年ミュンヘン五輪男子200メートル平泳ぎ金メダリスト・田口信教氏(53)=鹿屋体大教授 「泳ぎは(ハンセンより)北島の方が上。慌てないでやれば、金メダルは確実だと思っていた。集中力はさすがだ。平泳ぎは日本のお家芸。それを世界に示してくれた」
◆国際水連・古橋広之進副会長(75)「強い風が吹く、いい状態ではなかったが、うまく乗り越えて勝負に勝った。きょうは記録ではない。相手(ハンセン)がかたくなっていた。これで楽になっただろうから、200メートルもうまく泳いでほしい」
★女子400自、柴田と山田は対照的な表情
女子400メートル自由形決勝で、柴田亜衣(鹿屋体大)と山田沙知子(コナミスポーツ)が対照的な表情を見せた。準決勝4位の柴田は、決勝で5位に入り「満足しています。でも、隣の人が速くて…。まだまだまだと思いました」と言いながらも満面の笑み。一方、優勝候補といわれた山田は6位に終わり、「自分のベストを出したかった」と悔し涙を流した。
★森田は全体3位で決勝へ
男子100メートル背泳ぎ準決勝で、森田智己(セントラルスポーツ)が3番手で決勝に進出した。午前の予選では全体1位の54秒40、午後の準決勝では54秒62をマークした。「みんな緊張したっていうけど、ボクはそうでもなかった」。師匠の鈴木陽二コーチは、88年ソウル五輪の同種目の金メダリスト・鈴木大地を育てた。五輪前に頭を虎刈りにした日本競泳陣のムードメーカーは、大舞台で兄弟子の後を追う。
★フェルプスの8冠ロードは多難?
8冠を目指した怪物マイケル・フェルプス(米国)が、いきなりつまずいた。米国チームで出場した男子400自由形リレーで3位に敗れた。直前の男子200メートル自由形準決勝では、同種目の世界記録保持者イアン・ソープ(豪州)と直接対決。ソープが全体2位だったのに対し、自身は同3位に終わり「彼はすごい男。追いつけるかどうか」と不安な表情を浮かべた。
|