10月30日の第5戦終了後、日本一に輝いたソフトバンク・小久保裕紀監督と握手をする阪神・藤川球児監督 =甲子園球場(撮影・長尾みなみ) 「シーズンやっていて、見ることがないホームランでした」
阪神・坂本誠志郎は10月30日の第5戦後、ソフトバンク6番・野村勇の延長十一回の決勝弾を、こう振り返った。秋風の影響があるだろうが、右打者が右翼席に放り込んだ一撃は、タイガースの2年ぶり日本一の夢を奪った。1勝1敗で始まった甲子園3連戦で、まさかの全敗。トラの6番打者は本拠地で計12打数無安打。28日の第3戦では「左翼・豊田寛」で始まり、熊谷敬宥、ラモン・ヘルナンデス、島田海吏の4人が打席に入る異常事態。日替わりで食らいつこうとしたが、力でねじ伏せられた。
ソフトバンクの本塁打数はMVPに輝いた山川穂高が3本で柳田悠岐、野村が各1本の計5本。一方、本塁打ゼロに終わった阪神の日本人選手アーチは2003年第7戦九回二死での広沢克己氏が最後だ。「21試合不発」を鷹に突き付けられた。6番に泣いて6番に泣かされたー。
「悔しさはないです。悔いが残るようなことは全くしてませんから。立ち向かうところが、またあって、いいなと思いますね。ありがたいことですね」
コメントを読んだ人間の感想はさておいて、藤川球児監督の敗軍の弁が、これ。昨年秋の就任会見から貫いた〝球児ワールド〟は敗退後も、いつものように続いた。「選手たち、スタッフの皆さんには伝えましたけど。胸を張ってリーグ優勝の報告を、これからしていこうと。そういった一面と、チームとして力を引き上げていかなきゃいけないのが私の仕事」。史上最速のリーグ制覇の向こうに、上には上がいた。どんな言葉を並べようが、動かすことのできない現実が目の前にあった。
今日本Sでは18打数1安打で打率・056。内野ゴロによる1打点に終わった5番大山悠輔の不振は確かに痛かった。しかし、大山のスランプは今季初じゃない。4番佐藤輝明は日本S初の第1戦から5試合連続打点をマークした。それでも1勝4敗。その差はレギュラーシーズンでは気づかなかった下位打線の弱さ。今シリーズは本調子ではなかったものの栗原陵矢、今季首位打者の牧原大成が腰をおろす打線と、前川右京、木浪聖也、島田、高寺望夢らが入るオーダー。第5戦で小久保裕紀監督は牧原大に代打近藤健介を選択した。「隣の芝は青く見える」とはいえ、第2戦の先発ジョン・デュプランティエ、昨季救援で失敗した村上頌樹の登板など、分岐点はあるが、セとの戦いでは感じられなかった打線の層の薄さもまた、大きな敗因だ。
「タイガースに入ったつもりで、見てもらいたい」。虎将から言われたD1位指名の創価大・立石正広の目に、この5試合は、どう映っただろうか。6番が目指すべき場所と実感してくれたのだろうか。今シリーズで左翼スタメンは島田が2試合、豊田、前川、高寺がそれぞれ1試合だった。6番は島田、高寺、豊田、前川、木浪。決め手に欠ける状況ながら、糸原健斗の出番はなかった。今季限りでの引退を表明した原口文仁はベンチメンバーすら入れなかった。苦悩の跡が見えるスタメンも、本職は三塁手で今季から二塁に回った立石が「6番・左翼」をこなせば、課題は一気に解消する。
虎将は敗退翌日のオーナーへのシーズン終了報告で「右の速球派リリーフ投手の台頭が必要」と明言した。工藤泰成、早川太貴、椎葉剛、石黒佑弥、木下里都といった名前はすぐに浮かぶ。来季高卒2年目を迎える今朝丸裕喜に賭けてみたい気もする。1日から高知・安芸で始まった秋季キャンプの大きな目的となる。しかし野手に目を向ければ、唯一の「6番・左翼」の候補者は立石。球団初の連覇を目指す26年の打線で、その名は、どこに入る? 選手育成には根気と時間が必要。だから多くは望まない。一人でいい。「見ることがないホームラン」と相手捕手が唸る打者が欲しい。
■稲見 誠(いなみ まこと) 1963年、大阪・東大阪市生まれ。89年に大阪サンスポに入社。大相撲などアマチュアスポーツを担当し、2001年から阪神キャップ。03年には18年ぶりのリーグ優勝を経験した。現在は大阪サンケイスポーツ企画委員。